長編手塚ブームが勝手に来てるので、
高校生以来の再読。
あの時は「なんかすごいものを見た」
という脱帽だけの感想だったけど、
今なら手塚の超絶技巧プロットを、
少し分解できる。
僕は手塚の最高傑作がこれとは思えない。
むしろ円熟したプロットの見本市だと思う。
以下ネタバレで少し分解してみよう。
大河である。
何十年もかけた話であり、
複数の登場人物の、
生涯の顛末を描くタイプの、
手塚長編の得意のスタイルだと思う。
必ず間あいだに、
数カ月や何年もの空白期間があることが特徴。
まあ大河なのだから当たり前と思ってはいけない。
手塚のやり方の特徴は、
「空白期間を挟むと、住んでるところや職業が、
まるで変わってるところからスタート」
ではないかと思った。
いや、手塚特有の特徴ではなく、
大河ものにはよくあるかもしれない。
ただ、手塚のやり方としては、
わざと時間を飛ばしたら、
職を転々と変えている、
というのはわざとやっている気がする。
「絵で見せる」ものだから、
ビジュアルが変わることを意識してると感じた。
もし手塚が小説家なら、
ここまで変えなかったのではないかなあ。
主人公の一人、峠は、
新聞記者から日雇いからホームレスから、
レストランの手伝いから、
飲み屋の手伝い?から、物書きへと、
変転しまくる。
アドルフ・カウフマンは、
子供、ドイツ学校、エース、ヒトラーの側近、
日本へのスパイ、ゲリラへと変転しまくる。
アドルフ・カミルは、
子供、パン屋、防空隊長、ゲリラへと変転しまくる。
女を絡めるのも特徴だ。
誰かを愛する、惚れられる、
一緒にいる、別れる、
相手が死ぬ(自殺、殺される)、
などによって、
「今どの状態か」のステータスが、
目まぐるしく変わる。
これは、わざとだろう。
ビジュアルを変えるのもある。
たとえば峠は左腕を負傷して、
左手が効かなくなり、
空襲では耳と聴力を失う。
そうした欠損も、ビジュアル上よく利用する傾向があるね。
そして、
大体どの作品でも、
最初に起こった事件がとても奇妙で、
それが最後まで作品を貫く軸になる。
この話では、
いうまでもなく、「ヒトラーがユダヤ人である」
という証拠だ。
このセンセーショナルなアイデアがこの作品をずっと引っ張る、
狂言回しになるわけだ。
隠蔽と暴露と裏切りと暗殺など、
陰謀が渦巻くこうしたアイデアを、
手塚は思いつくのがうまいと思う。
もちろん、
「ヒトラーがユダヤ人ってしたろ!」
だけ思いついてもこの話をつくることはできまい。
それからフィニッシュに至るまで、
無限のアイデアが必要になる。
だが最後までこれらが貫かれるのが、
手塚長編の特徴な気がする。
よく手塚が使うパーツがある。
盗み聞き、入れ違い、横恋慕、果たされぬ約束、
レイプ、アクシデントによる事故死、
親子関係、あの時の子供が成長して大人に、
などかなあ。
たぶんもっとある。
陰謀、謎、隠蔽、逃亡、謎を追う執念の者、
などと基本パーツになるね。
どうやってこの話をつくるのか?
を考えると、
○○年から○○年まで描こう、
をまずは決めるんじゃないか。
そこに入る重要事件を取り出して、
それと個人的ストーリーがシンクロするようにつくるのでは。
この話で言えば、
盧溝橋事件、ポーランド侵攻による第二次大戦、
パリ陥落、アメリカ参戦、日本の本土爆撃、
第二次大戦終結、
そしてパレスチナ戦争、
などだろう。
これは火の鳥でも巧みに使われる技で、
歴史的事件と、登場人物たちのストーリーを、
巧みに絡めるのがうまいと思う。
とくに今作では神戸の空襲が、
手塚の実体験に基づいたかのようなリアル感があり、
神戸→帝塚山といった地元でしかわからない距離感が、
実感を持って描かれていた。
もうこうやって作品中にかいてしまえば、
自分の記憶なのか作中の話なのか、
ごっちゃになってしまうんじゃないかねえ。
あとは、
主役を3人置く、
というのもよくある技のような気がする。
1人、2人だと単純な話になるから、
3人の人生を大河として描き、
最後に交錯するように持ってくる、
というのが技なのではないか。
とくに今作はめずらしく、
2人のアドルフが直接対決するという、
あまりない形式になっている。
この時のビラが「アドルフに告ぐ」
であったときの、
タイトル回収の凄まじさよ、
って思ったな。
ここに至るまでの話だったのかと。
つまりこれは、
最初からここまで考えられていたということだ。
これらの要素を同時にさばければ、
これだけの入り組んだストーリーが書けると思う。
いや、無理だろ。
それができるのが手塚だったと思うと、
どうなってんだ頭の中、と思ってしまう。
たくさんのたくさんの話をこれまで書いてきたからこその、
熟練度の高いパーツを組み合わせた、
ストーリーテリングといったところかなあ。
細かい構成としては、
章単位で構成がきっちり計算されていることに驚く。
章がまったく別のところからはじまり、
章のクライマックスに来たら、
ずっと気になっていた焦点と合流する、
という構成で、ハラハラドキドキさせていたと思う。
男だけでなく、女の絡ませ方がうまいよね。
親子の情もね。
あとたいてい陰謀を追う、
熱心ないい人の刑事か、
冷酷な悪役がでてくる。
前者は仁川さんで、後者はアセチレンランプ。
ランプの冒頭からの執念に対して、
ヒトラー暗殺で退場かよ、
というのはややトーンダウン。
まあヒトラーの死で、文書を追う理由がなくなってしまうしなー。
その前に峠と直接対決したかったところだが、
主役はアドルフの2人だしなー。
第二次大戦ということで、
「ドクトルジバゴ」をまたも思い出す。
こういう大河ものを、
いつか書きたいものだ。
2025年08月23日
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