2025年09月06日

誠実な脚本(「ルディ/涙のウィニングラン」評)

実話をベースにした話が好きな人がたまにいる。
たしかな成功が約束されてるからだろうか。
フィクションの嘘くさい成功は、
現実とは関係ないと思ってしまうからだろうか。

知り合いに勧められて見た。
悪くないが、やっぱり事実ベースの成功の小ささに、
夢が持てないというかね。
なので70点といったところ。

ただ、その小さなサクセスストーリーを、
フィクションの脚本の技法で、
上手にふくらませているので、
脚本の技術教科書としてちょうどいいと思う。

以下ネタバレ。


実は、約15分置きに、
いいシーンまたはターニングポイントが置いてある。

だからちょうど良く飽きずに見れる。


12〜15分:親友がスタジャンをプレゼントして、
 夢を諦めるなというシーン。
 タバコをつけたマッチをクッキーにさして、
 それを吹き消す、ささやかな誕生日が忘れられない。

26〜29分:神父に会い、短大編入を提案されるシーン。
 第一ターニングポイントだ。
 しばらく神父が、主人公を神父になりたい人だと思ってるのが笑える。
 こうしたシーンで緊張を解すのはとてもうまいね。


42〜44分:はじめてロッカーに入り、レコードで覚えたコーチの言葉を演説する。
 第一ピンチポイント。
 ストーリーが本筋から外れていないことを示す。
 わざわざ椅子を持ってきてその上でやる、
 という異常シーンで驚きを出している。うまい。

64〜65分:大学編入の通知をベンチの上で見るシーン
 ミッドポイント。
 セリフがなく音楽だけで表現しているのがうまい。
 これまでも何度もダメだった、最後の1回でもうダメだろうという、
 絶望からの逆転になってるのが上手。
 文字通りカメラが回り込み、人生のターニングポイントを示す。

71〜72分:トライアウト合格のシーン
 第二ピンチポイント。
 ピンチポイントは2つとも希望を見出すシーンである。
 単に「合格だ」というシーンではなく、
 コーチはずっと合格前提で話してて、
 最後に「合格ですか?」とわかるところがうまい。

93〜95分:レギュラーたちがコーチにルディをレギュラーにと嘆願するシーン
 第二ターニングポイント。
 このこと自体は実話なのだろうが、
 映画にしやすいビジュアル芝居になっている。
 やって来たレギュラーが、一旦コーチの机にユニホームを投げ、
 背番号返上を示すのだ。
 そして次々にやってきたレギュラーたちが、
 次々に机の上にユニホームを重ねていく、
 という、絵で思いを示すため、
 言葉がなくても伝わるのだ。
 とてもアメリカ映画的ないいシーンだ。

100〜101分:黒人の芝生世話係が、試合を見に来たシーン。
 彼も実はアメフト選手で、レギュラーになれなくてやめた。
 一生後悔するぞ、と辞めるのをやめさせた経緯。
 最初に出会ったのも彼で、
 ずっと友情が保たれていたのがたまらんよね。


スポーツ映画の見本のような、
ウェルメイドな人間ドラマだ。

とくに後半ほど、
セリフがないいいシーンが多い。

参考にされたい。


あとうまいのは、
アメフトのルールが分からなくても話がわかること。
試合を忠実に追ってるのではなく、
体が小さいからタックルに弱いこと、
だけど負けん気だけは強いこと、
色々あってルディに出番が回ってきたこと、
敵のエースにタックルしたこと、
などだけでわかるのが上手。

私たちは「成功」を投影できればそれでいい、
という割り切りが上手。
posted by おおおかとしひこ at 21:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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