Twitterから。
> 昔の映画で顔が挟まってすごい笑顔の人をちょくちょく見るんだけど、あれがどんな映画の、何をしている場面なのかは知らない。でもその顔だけは知ってる。
笑った。「シャイニング」だね。
スティーブン・キング原作、
スタンリー・キューブリック監督。
あのおじさんは怪優ジャック・ニコルソン。
とある古いホテルを舞台にしたホラーだ。
この物語のイコンはなにか、考えよう。
なおネタバレします。
これまでの議論の通り、
イコンの理想は、
その物語のテーマの暗示であり、
見たこともない新しい絵で象徴されることだ。
「MONDAYS」も「リバー、流れないでよ」も、
それを象徴できていない。
「ドロステのはてで僕ら」は、
無限増幅モニタが事件を象徴しているが、
テーマを象徴してはいない。
この3本とも、
あるテーマを語るような映画ではない。
いわばホラーと同じである。
「とある新しいシチュエーションに遭遇して、
そこから脱出する話」
として括れるわけだ。
「ドロステのはてで僕ら」は、
それでもラブストーリーで1本軸が通ってて、
「未来は自分で決める」というテーマになっているから、
ひとつ頭が抜けていて出来が良い。
だけどそのテーマを暗示したビジュアルではないのが残念だ。
「シャイニング」も同様だ。
これはホラーであり、
高尚な人生とはなんてテーマはない。
ただただ「実は夫は狂っていた」が怖い、
モンスターものの一種のジャンルと言ってよい。
本編には、かなり凄い表現がたくさんある。
この映画のために開発されたステディカメラが凄い。
こうした「なめらかにカメラが自由に動く」は、
この映画ではじめて開発されたのだ。
ホテルの廊下を三輪車で漕ぐカット、
クライマックスの植木の迷路での追いかけに使われ、
以後何にでも使われる機材となった。
「リバー」も「ドロステ」も、
この機材のスマホ版(メイキングをみるとオズモだな)を、
使っているね。
予告編にも使われた、
エレベーターが開いたら猛烈な量の血が襲う絵もすごい。
廊下の先の双子の幽霊もこわい。
これは以後いろんな映像作品でパクられる。
そしてなにより、
「夫が実は狂っていた」ことが判明する、
「タイプライターにずっと同じ文が書いてある」ショットの恐怖。
件の、「ジャック・ニコルソンが扉に挟まっている絵」は、
挟まっているのではなくw、
斧で扉を叩き壊してその隙間から覗いている絵だ。
この狂気は、
この映画の中でもトップクラスに怖くて強い。
リアクション役の妻は実は素人役者で、
斧で扉が叩き壊されることを聞かされていなかった。
なのであの斧越しに叫ぶ恐怖のカットは、
マジで殺されると思って叫んでいるそうだ。
鬼。
その恐怖の演出もあいまって、
狂った夫の笑顔は一番怖いのよね。
つまり、
シャイニングのイコンは、
ホラーであるところの、
「一番怖い絵」をもってきたのだ。
これが正解であることは、
他のデザインのポスターをみると理解できる。
まずこれがオリジナルね。
それ以外を見てみよう。
IMG_6373.webp
ちょうど全部入りもあったわ。
また、キューブリックは宣伝にも厳しく、
デザイナーの案に没を出しまくったらしい。
その没案が残っている。
まあ、あの巨大迷路が金額的にも最大の売りになるのだから、
そこをフィーチャーしたいというプロデューサー側の意見はわかる。
それが「目」になってるというアイデアも悪くない。
(そんなものは本編にないが、表現という意味でね)
これらのアイデアを全部すっ飛ばすほどに、
ジャック・ニコルソンの顔芸の方がいい、
というのが、
映画の凄味だと僕は思うね。
たしかに頭で考えれば、
廊下の先の双子や、
雪の中に閉じ込められたホテルで起こった惨劇、
あるいは、
クライマックスであり、
大金のかかった(巨大迷路は全部セット、
高額なステディカム撮影)迷路シーンを、
売りにしたくなる。
だがこれは「ホラー」である。
「一番怖いシーンを売ろう」
「一番怖いシーンをイコンにしよう」
と判断した人が鮮やかだ。
かくして、
ジャック・ニコルソンは、
「笑顔で怖い人」という時代のイコンを、
一手に引き受ける役者になった。
(そもそも「イージーライダー」で、
狂気ではあったけど)
初代ジョーカーに抜擢されるのもよくわかるわ。
そのパブリックイメージを利用した、
「恋愛小説家」は、
僕の好きな映画の一つだな。
全くその映画を見たことのない人に、
どれだけ訴えることができるか。
それが広告の力である。
全く知らないけどドアに挟まってる人、
くらいには記憶されてるので、
このデザインは優秀なのだ。
ただ狂気で笑ってるだけならば、
「フルメタルジャケット」の、
トイレで狂ったシーンが有名だが、
それよりも「壊れたドアから顔を出す」ことで、
単なるアップにせずにオリジナルになっているのが良いね。
この強さを考えると、
シチュエーションホラーともいえる、
「MONDAYS」「リバー、流れないでよ」は、
三流クソデザインということになる。
「ドロステのはてで僕ら」は、
無限ループモニタというイコンは、
ギリ伝えられているので、
二流に昇格している。
ちなみにこれ。
イコンが二流でも、キャッチコピーで救うこともできる。
だけどこれのキャッチはださい。
キャッチ「時間に殴られろ。」
ボディ「ヨーロッパ企画がおくる、エクストリーム時間SF」
よくわからない。
少なくともボディはわからなすぎる。
「2分先の未来とモニタがつながった?!
あれ……それを無限鏡にすれば、遥か未来と繋がれるのでは?!」
くらい説明してもいいと思うよ。
おもしろそうだし。
そこまでボディで説明できてるなら、
キャッチは「未来、決まってるんすかね?」
くらいやってもいいと思う。
これはテーマと関係するので、
映画になると思うね。
こんなふうにして、
コピーとイコンは相補関係にある。
だけど、
ほんとうに良いイコンは、
コピーを不要とするものだ。
「最上のセリフは無言」という、
映画の原則を思い出すべきである。
今回のイコンは、
ホラーという特殊な文脈の話だ。
ホラーがモチーフ、ガワにすぎず、
それを用いて別のテーマを語ることが、
本当の映画だと僕は思う。
その意味でターミネーター1は、傑作なんだよね。
ガワ自体は不気味なグラサン筋肉達磨に追いかけられるホラーなんだけど、
その正体が未来から来たロボットで、
私はそれと戦う決意をする、
という「未来は自分の手の中にある」と人生に落ちるから、
いい映画なんだよな。
ちなみにターミネーター1のポスターはこちら。
敵方のモンスタービジュアルで統一して、
ホラー映画の文脈に乗っている。
そして、グラサン筋肉達磨革ジャンショットガンハーレーという、
のちに北斗の拳に輸入された、
オリジナルのスタイルが当時は「新しい絵」だったね。
まあこっちのほうが強いので、
ラストカットのセリフのテーマまで、
ポスターでは辿り着けないだろうなー。
映画には2つの要素がある。
ガワという客引きと、
テーマという本質だ。
どちらがイコンになってもいいだろう。
理想は、両者の一体化だけど。
2025年11月17日
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