韓国映画は普段ほとんど見ないんだけど、
「韓国のスパイで、北朝鮮に潜入して金正日に会った男」
というめったに見ないシチュエーションの話と聞いてみてみた。
評判通り緊張感があふれてるし、
日本映画にはない重厚な画面作りでおもしろい。
だが、脚本的にはどうかな。
以下ネタバレで。
この話が面白かったのはどこだ?
金正日に会うまでじゃない?
スパイかと疑われているのを、
なんとか演技などでごまかしていって、
ついに金正日に会うまでの前半戦はかなり面白かった。
北の所長(僕には水谷豊に見えたが、
韓国俳優ではかなりの有名人だそうだ)のキャラクターがよくて、
何を考えているのかわからない恐ろしさが、
かなり良かった。
ただ、出オチだったかな。
金大中大統領選になる後半、
話はツイストしてしまう。
北から脱出するために、所長に助けられる話になってしまう。
そこからラストでの再会までのストーリーラインを含めて、
「熱い絆の話である」とか「ブロマンス」とか言われるけど、
最初からそういう振りじゃなかったので、
どっちつかずだなあと思った。
実在のものをモデルにした場合、
この問題がつねに伴うと考える。
つまり、
主人公の黒金星は韓国のスパイとして何かを成し遂げたわけではないし、
彼の大活躍によって南北が統一されたわけではない。
なので、落ちとしては、
今の世界線につながる、
南北の緊張状態が維持された、
ということになるのはわかり切っている。
だからハッピーエンドにはならないのだろうなあ、
なるとしたら、彼の目的=北朝鮮の核疑惑を明らかにすること、
という小さな目的の達成なのだろう、
と予測していた。
で、この脚本だと、
それすらもツイストしてしまう。
金正日に会い、
南の広告を北で撮影する、そのために色んなところに行き、
金儲けのふりをして核施設を探す、
というプロットは大変面白かった。
だけど、そこから急に背景がツイストして、
金大中の大統領選が背景になってしまう。
彼のスパイ活動はどうでもよくなり、
核施設が存在しようがするまいが、
彼の目的が消失してしまう。
これが実在の話に基づいたものなのか、
それとも創作かはわからない。
だけど、もしこれが創作ならば、
「この話のセンタークエスチョンがどっかに行ってしまい、
前半と後半は別々の目的の話ではないか」
というそしりを免れないものになっている。
前半は北朝鮮の核を暴く、
後半は韓国に裏切られる闇を暴き、
命からがら逃げる、
という、ニコイチの話になってしまっている。
その逃走途中で、
本来の目的である核施設の証拠を見つけ、
ついに韓国へ帰れた、
そしてその情報をもとに、
金大中は外交に生かして、スパイ部署は安泰を迎えたのだった、
というのが、
普通の映画のストーリーと結末だ。
しかしそんなに現実は都合よくなっていないので、
現実に合わせた結果、
センタークエスチョンが中折れしたものになっしてしまった。
だから、ストーリーとしては弱い。
メインの目的が途中でどうでもよくなってしまうのは、
お話として、一本のものになっていない。
青い鳥を探して旅に出た二人が、
途中で青い鳥はどうでもよくなり、
アイドルグループになって出世した、
という話になるのは変だ。
もしそれがデビュー時に「ユニット名は『青い鳥』になったよ」
と落ちをつけるならまだある。
しかし、そのようにもなっていなかったのが、
このストーリーだ。
実在の話をもとにすると、
こういうことがよくある。
というのも、現実には、
「あれは一体どうなったんだっけ?」という尻切れトンボが、
とてもよくあるからだ。
鳴り物入りでデビューした芸能人がその後鳴かず飛ばずだったり、
「今度飲みに行きましょう」がいつまでたっても実現しなかったり、
「福島復興のための五輪」が、東京と札幌開催になったりなどだ。
最初の約束はたいてい反故になったり、
忘れられたり、変質したりする。
逆にいうと、物語というものは、
「最初に約束したことを最後まで責任とって結末をつけること」
だとも言えると思う。
それをやるために、
Aストーリーであるスパイ行動はしょうがなしとして、
この物語はBストーリーをぶっこんできた。
所長というキャラクターだ。
最初は疑われている蛇のような男に見せておいて、
次第に親しみのあるキャラクターに変わっていく。
とくに僕がいいと思ったのは、
金正日の宮殿で会うときに、
普段厳しい感じの所長が、
急に将軍が来る直前に緊張した芝居だな。
あれでこういう感じなんだ、と人間味が一気に出たと思う。
ここから、二人で組む話になるし、
ここから二人の友情の話になっていく。
ということで、
Bストーリーでこの話は一気通貫させて、
Aストーリーは途中で空中分解する、
という奇妙な構造になっている。
で、Aストーリーで始まっているから、中途半端だな、
という印象を受ける。
これがBストーリーがメインの話であるならば、
わからなくもないんだけど。
出会いはきちんと印象的につくられている。
裏口から出て、汚い商店街をくぐって、
苦労してたどり着いた中華レストラン、
という不穏な感じはとてもよかった。
だからこれは一種のラブストーリーとも考えれば、
かなり豪勢に作られているなあ、
などとは思う。
しかし、それよりもAストーリーの、
金正日に会うまでの話が面白かったので、
Aストーリーは空中分解したので、
残りのBストーリーで「ごまかした」という印象がぬぐえない。
それぞれは面白いよ。
広告をつくる、という奇想天外な発想はよい。
所長の質素な実家に行くのもよい。
金正日の宮殿に行くまでの、自白剤を打たれたり、
湖の向こうに行く感じもとてもよい。
金正日役の役作りがあんなに完璧だとも思わなかったし。
(すごいプレッシャーだったろうなあ)
韓国の人たちが大統領選を利用して、
北朝鮮とつながっているという後半戦も面白かったし、
結局ファックスのねじを外す、
古典的なスパイものかよ、なんてのも悪くなかった。
ロケーションはよい。トーンも音楽もよい。
役者の演技も素晴らしい。
だけど、やっぱりストーリーが物足りない。
実在のものを題材にした限界だと思った。
現実では、「あれはどうなった?」がよくある。
それがフィクションのものでもなってしまっては、
尻切れトンボになってしまうのだ。
とはいえ、架空の国の架空の話じゃおもしろくない。
つまり、そのへんが限界なんだよな。
僕は、限界を突破するためには、
実在の話をもとにするべきじゃないと考えている。
飛び方が架空には勝てない、と思っていたのだが、
それよりも、
「現実以上に、架空では決着を納得いくようにつけなければならない」
ということが勉強になったね。
そういう意味では、見ておくべき作品だ。
他人の失敗は勉強になる。
2025年11月30日
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