インド映画の面白さ、
すばらしさは、全部本気なところなんだよね。
物語、芝居、絵作り、音作り。
どこも手を抜いてない、完璧なもの。
地上の極楽が映画だから、
コストダウンなにそれの状態。
で、絵と音だけなら金をかければできるが、
物語は金を積んでできるものではない。
その物語こそ面白いわけ。
感情移入を、トップシーンネタバレで解説しよう。
インドの小さな田舎の村。
歌を歌う娘が、イギリス人の軍隊の夫婦の、
手に絵を描いて歌う。
嫁が気に入ったわというと、
旦那はコインを2枚地面に投げて去って行く。
歌の代金だ、取っておけと母親に言う村の誰か。
ところが軍人の部下が、娘を取り押さえて車に押し込めてしまう。
歌の代金じゃない、
娘を買って行った、と気づく村人。
ここがまずうまい。
「村娘がさらわれる」
というシークエンスで、
こんなエピソードは初めて見た気がする。
最初から身分差があり、
最初からインド人が馬鹿にされていることがわかる、
秀逸なエピソードだ。
「コイン2枚は歌の代金じゃない、娘の代金だ!」
という気づきが、絶望的だ。
ここからの母親の狂い方が本気だ。
泣き叫び、車に縋り付く。
今こんな芝居できる日本の女優いないよなあ。
こんな芝居要求されないもの。
軍隊の行進を止めるほど取り乱して、
衛兵に銃を向けられる芝居をしてください、
っても、こんなドロドロに乱れてくれないだろ。
ここから先も秀逸で、
その衛兵の銃を軍隊長がさえぎるんだよね。
「銃弾一発にいくらかかってると思ってる」と。
「イギリスの工場でイギリス人が働き、
七つの海を超えてここまで運ぶのに、
いくらかかってるのか知ってるのか?」と。
秀逸だ。
イギリスによるインド植民地化は、
インドを奴隷にするためである、
本国では金がかかりすぎるという、
搾取構造のドンがこの男なわけだ。
ものすごい金かと思いきや、
「6シリング」だったかな。記憶が曖昧。
たぶん、はした金のはず。
それよりもこの母親は価値がないと示す、
この会話が絶妙である。
そして衛兵は銃を下げ、
その辺に落ちてた木(かなり太い)で、
母親の頭をフルスイングで殴る。
頭から血を流し、動かなくなる母親。
車の中で泣き叫ぶ娘。
村の男たちは何もできない。
去って行く軍隊。
パーフェクトな、シンプルなセットアップ。
これだけでつらくなる。
母親死んだ?となり、
イギリス人への憎悪が生まれるほどの、
感情を母と娘から受け取る。
ひれふしたままの男たちの、
何もできない様にむかつく。
これがこの作品のメインプロットである。
イギリス人軍隊長に捕らえられた娘を取り戻すこと。
平和な村に戻ること。
三時間の映画のセットアップを、
5〜6分かけてやり尽くした、
たった1シーン(村)の出来事だ。
ただの説明ではない。
母親の半狂乱の感情、娘の泣き叫ぶ感情、
そして悪役の悪役っぷりへの憎悪、
銃でなく木で殴られる酷さ。
この本気の感情の動きこそ映画だ。
本気で悲しく、本気で怒りを覚え、
本気で憎悪するから、
本気で戦うのだ。
そのセットアップに十分なファーストシーンである。
ファーストシーンだよ?
日本映画はこれに30分くらいかけてしまわない?
そしてこの感情にまで至らなくない?
インド映画は怪我やえげつなさにも容赦ない。
フルスイングで殴られ、頭から倒れた母親は死んだと思う。
だから、怒りが湧いてくる。
コンプライアンスとか言ってる場合か。
法など通用しないところに、
秩序を取り戻す話こそ、
ストーリーの原点だ。
コンプライアンスで世界は落ち着いたが温度が下がった。
このインド映画は鉄より熱い。
木で頭をフルスイングした音が忘れられない。
衛兵は無表情でやった。
悪役夫婦は顔一つ変えない。
村人は恐怖で身動きできない。
完璧なセットアップだ。
これを救うヒーローがやってきたら、
「待ってました!」と拍手の用意だぜ。
しかしこの物語は単純にいかないんだよな。
もう一人の男のセットアップをやってから、
ようやくヒーローを出してくる。
そしてこの物語は、
その二人の男の、数奇な運命の物語だ。
三時間かけて見る、
エンターテイメントに相応しい完璧なオープニング。
このあとある、二人の男の出会いと、
フリーズしてタイトルが出るところで、
僕は拍手をしてしまった。
それほどに感情を揺さぶられる、
すばらしいセットアップだ。
たぶんメインタイトル出るまでに、30分くらいかかったよな。
アバターの冒頭30分よりも、
全然熱くて全然濃くて、
全然感情が振り回される、
人の感情のほとばしりと、
ハラハラと、ワクワクと、
この映画の全てがこの30分に詰まっている。
もうこれだけで勝利は見えたようなもんだろ。
いや、
すべてはファーストシーンのセットアップなんだよね。
そこからここまで一直線に面白いんだもの。
そしてそのあとミッドポイントのインターミッションまで一直線に面白いし、
そのあとのクライマックスまでパーフェクトだし、
エンディングまで楽しめたし、
アバターと同じ時間これ?って思ったもの。
アバター2が20ぐらいだとしたら、
RRRは5万くらいあるね。
物語の力量差がありすぎる。
インド人は熱い。
インド人は本気で泣く。
インド人は善良で、インド人は騙され、
インド人は下に見られて、
インド人は怒る。
全部本気だから、インド映画は面白い。
その選りすぐりに面白い、桁違いのエンターテイメント。
俺イギリスのインド植民地の歴史を調べたいと思ったもの。
あんなにひどかったのかと。
だからヒーローが屋敷を爆破するのは、
物凄く爽快なんだよな。
何もかもたまらぬ、映画の中の映画。
映画を目指す人間は全員みろ。
これを超えないものは認めん。
なんでこれが話題になってないの?
日本の批評家とマスコミは馬鹿だろ。
(追記:
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/イギリス領インド帝国
に膨大に歴史が記されている。
インドが今の形になったのは1948年で、
まだ100年経っていない。それまではずっとイギリス領だった。
香港もずっとイギリス領だった。
独立運動をしたのがガンジーで、
だからガンジーは偉いのか。
1930年と映画内では表記されていたから、
独立まであそこからあと18年も戦うことになるんだなあ)
2023年01月02日
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