2023年01月02日

全部本気(「RRR」評3)

インド映画の面白さ、
すばらしさは、全部本気なところなんだよね。
物語、芝居、絵作り、音作り。
どこも手を抜いてない、完璧なもの。
地上の極楽が映画だから、
コストダウンなにそれの状態。

で、絵と音だけなら金をかければできるが、
物語は金を積んでできるものではない。
その物語こそ面白いわけ。

感情移入を、トップシーンネタバレで解説しよう。


インドの小さな田舎の村。
歌を歌う娘が、イギリス人の軍隊の夫婦の、
手に絵を描いて歌う。

嫁が気に入ったわというと、
旦那はコインを2枚地面に投げて去って行く。

歌の代金だ、取っておけと母親に言う村の誰か。
ところが軍人の部下が、娘を取り押さえて車に押し込めてしまう。

歌の代金じゃない、
娘を買って行った、と気づく村人。


ここがまずうまい。

「村娘がさらわれる」
というシークエンスで、
こんなエピソードは初めて見た気がする。

最初から身分差があり、
最初からインド人が馬鹿にされていることがわかる、
秀逸なエピソードだ。
「コイン2枚は歌の代金じゃない、娘の代金だ!」
という気づきが、絶望的だ。

ここからの母親の狂い方が本気だ。
泣き叫び、車に縋り付く。

今こんな芝居できる日本の女優いないよなあ。
こんな芝居要求されないもの。
軍隊の行進を止めるほど取り乱して、
衛兵に銃を向けられる芝居をしてください、
っても、こんなドロドロに乱れてくれないだろ。

ここから先も秀逸で、
その衛兵の銃を軍隊長がさえぎるんだよね。
「銃弾一発にいくらかかってると思ってる」と。
「イギリスの工場でイギリス人が働き、
七つの海を超えてここまで運ぶのに、
いくらかかってるのか知ってるのか?」と。
秀逸だ。
イギリスによるインド植民地化は、
インドを奴隷にするためである、
本国では金がかかりすぎるという、
搾取構造のドンがこの男なわけだ。
ものすごい金かと思いきや、
「6シリング」だったかな。記憶が曖昧。
たぶん、はした金のはず。

それよりもこの母親は価値がないと示す、
この会話が絶妙である。

そして衛兵は銃を下げ、
その辺に落ちてた木(かなり太い)で、
母親の頭をフルスイングで殴る。

頭から血を流し、動かなくなる母親。
車の中で泣き叫ぶ娘。
村の男たちは何もできない。
去って行く軍隊。

パーフェクトな、シンプルなセットアップ。


これだけでつらくなる。
母親死んだ?となり、
イギリス人への憎悪が生まれるほどの、
感情を母と娘から受け取る。
ひれふしたままの男たちの、
何もできない様にむかつく。

これがこの作品のメインプロットである。
イギリス人軍隊長に捕らえられた娘を取り戻すこと。
平和な村に戻ること。
三時間の映画のセットアップを、
5〜6分かけてやり尽くした、
たった1シーン(村)の出来事だ。

ただの説明ではない。
母親の半狂乱の感情、娘の泣き叫ぶ感情、
そして悪役の悪役っぷりへの憎悪、
銃でなく木で殴られる酷さ。

この本気の感情の動きこそ映画だ。

本気で悲しく、本気で怒りを覚え、
本気で憎悪するから、
本気で戦うのだ。

そのセットアップに十分なファーストシーンである。
ファーストシーンだよ?
日本映画はこれに30分くらいかけてしまわない?
そしてこの感情にまで至らなくない?


インド映画は怪我やえげつなさにも容赦ない。
フルスイングで殴られ、頭から倒れた母親は死んだと思う。
だから、怒りが湧いてくる。

コンプライアンスとか言ってる場合か。
法など通用しないところに、
秩序を取り戻す話こそ、
ストーリーの原点だ。

コンプライアンスで世界は落ち着いたが温度が下がった。

このインド映画は鉄より熱い。

木で頭をフルスイングした音が忘れられない。
衛兵は無表情でやった。
悪役夫婦は顔一つ変えない。
村人は恐怖で身動きできない。

完璧なセットアップだ。
これを救うヒーローがやってきたら、
「待ってました!」と拍手の用意だぜ。

しかしこの物語は単純にいかないんだよな。
もう一人の男のセットアップをやってから、
ようやくヒーローを出してくる。

そしてこの物語は、
その二人の男の、数奇な運命の物語だ。

三時間かけて見る、
エンターテイメントに相応しい完璧なオープニング。

このあとある、二人の男の出会いと、
フリーズしてタイトルが出るところで、
僕は拍手をしてしまった。
それほどに感情を揺さぶられる、
すばらしいセットアップだ。
たぶんメインタイトル出るまでに、30分くらいかかったよな。

アバターの冒頭30分よりも、
全然熱くて全然濃くて、
全然感情が振り回される、
人の感情のほとばしりと、
ハラハラと、ワクワクと、
この映画の全てがこの30分に詰まっている。

もうこれだけで勝利は見えたようなもんだろ。
いや、
すべてはファーストシーンのセットアップなんだよね。
そこからここまで一直線に面白いんだもの。

そしてそのあとミッドポイントのインターミッションまで一直線に面白いし、
そのあとのクライマックスまでパーフェクトだし、
エンディングまで楽しめたし、
アバターと同じ時間これ?って思ったもの。

アバター2が20ぐらいだとしたら、
RRRは5万くらいあるね。
物語の力量差がありすぎる。


インド人は熱い。
インド人は本気で泣く。
インド人は善良で、インド人は騙され、
インド人は下に見られて、
インド人は怒る。
全部本気だから、インド映画は面白い。

その選りすぐりに面白い、桁違いのエンターテイメント。

俺イギリスのインド植民地の歴史を調べたいと思ったもの。
あんなにひどかったのかと。
だからヒーローが屋敷を爆破するのは、
物凄く爽快なんだよな。


何もかもたまらぬ、映画の中の映画。
映画を目指す人間は全員みろ。
これを超えないものは認めん。

なんでこれが話題になってないの?
日本の批評家とマスコミは馬鹿だろ。



(追記:
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/イギリス領インド帝国
に膨大に歴史が記されている。
インドが今の形になったのは1948年で、
まだ100年経っていない。それまではずっとイギリス領だった。
香港もずっとイギリス領だった。
独立運動をしたのがガンジーで、
だからガンジーは偉いのか。
1930年と映画内では表記されていたから、
独立まであそこからあと18年も戦うことになるんだなあ)
posted by おおおかとしひこ at 13:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック