2023年01月02日

どうすればこの物語がつくれるか(「RRR」評4)

僕が打ちのめされるほど面白い物語に出会った時は、
「どこからどのように思いつけば、
これができるだろう?」と、
分析することがある。

やってみる。当然ネタバレ。


まず芯にあるものはなんだろう?
それ以上分解できない、
原子のようなもの、雪だるまの芯のようなもの。

「二人の男の数奇な運命」だろう。
メインテーマでも散々歌ってるし。
○○と○○の間、で繰り返されたあの曲よかったなあ。

数奇な運命とはどういうことか。
ざっくり、出会って、別れるのだろうか?
男だからセックスするわけではない。
では殺し合うのだろうか?戦うのか?

では二つのパターンが考えられる。

仲間になって、殺し合う
殺し合って、仲間になる

前者は運命の敵みたいなことかな。
「リングにかけろ」はそのパターンだ。
一旦戦って、仲間になり、そして最後ラスボスになる。

後者はあまり見たことがないから、
面白そうだ。

殺し合う前に、一回仲間になるのはどうだろう?
ここがアイデアの分水嶺だね。

出会う、仲間になる、殺し合って、再び仲間になる。

このようなストーリーラインを、
「数奇な運命」にしよう。

間の「殺し合う」が難しい。
それぞれの動機を考えなければならない。
便宜上、二人の男を兄と弟とする。

どのような話か?
二人は仲がいいのだが、
職務上、闘わなければならない話になるパターンは?

「ベンハー」がまさにそうだ。
親友が、所属する民族が異なるため戦う話である。

仮に兄は警察とする。
職務上戦う人だからね。
弟は犯罪者?
濡れ衣かな。

でもなぜ最後は仲間になるんだ?
兄が警官をやめるのか?
弟が警官になるのか?

ここもアイデアの分水嶺だ。
兄が警官をやめるほうを選択する。


兄と弟は出会う、仲間になる。
しかし兄は警官の職務上、弟と戦うことになる。
だが兄は辞めて、弟とともに戦う。
誰と?
腐った上層部だろう。
つまり街に悪の警察がいて、
兄はそこの所属で、弟は悪い警察に戦っている。
だが兄はその真意を知り、
警官を辞めて、弟と共に警察を倒す話。

これが、この物語の大まかなプロットラインだ。

ここで、悪役に対する一つのアイデアがやってくる。
イギリス統治時代を舞台背景にする。
イギリスを悪にするのはどうか?

つまり兄はイギリス所属の警官、
ラストはイギリス軍隊と戦う話であると。

こうすると、ほぼ全体の構造ができあがる。

次は二人の動機だ。

弟は、では対イギリスレジスタンスだろうか?
政治色が濃すぎる。庶民の代表ではない。
兄の葛藤がたくさんあるから、
弟は庶民の代表にするべきだろう。
では、弟は庶民、兄は警官の階級としよう。

じゃあ弟はなぜイギリスと戦う?
妹が誘拐されて、屋敷に忍び込み、奪還したい、
ということにしよう。

じゃあ兄はなぜイギリスの犬をやっている?
警官として信用されて、
彼らの武器庫から故郷の村に武器を流し、
対イギリス戦争を起こすためである、
としようか。

ここがアイデアの源泉である。

イギリス、庶民、警官、武器のための偽りの警官。


ここまで出来れば、
あとはどうやって出会うかを考えれば良い。
出会う舞台は屋敷のあるデリー。

インド人警官は嫌われてるから、
警官と知らずに出会うことにしよう。
兄は弟の動機を知らず、
弟は兄が警官と知らないまま出会い、
単に二人の男として出会うことにしよう。

ここもアイデアの分水嶺だ。

劇的アイロニーである。
観客は知っているそのことを、登場人物は知らないのだ。
だから、「いつそれがバレるのか」が、
ハラハラポイントになるわけだ。

列車の脱線事故を二人のヒーローが助けることで、
意気投合することにしようか。
その劇的なアクションを考えよう。

こうして出会った二人の男は、
ただキャッキャウフフをしても面白くないな。
なにかの為に行動することが必要だ。

じゃあ女関係か。

よし、弟が屋敷に忍び込む為に、
屋敷のイギリス人と親しい間柄をつくろうと企んでいることにして、
その中の美女に惚れてしまうことにしよう。

そうすると、屋敷の中と外みたいなドラマをつくれるぞ。
イギリス人といえば社交ダンスパーティーだ。
そこに弟が招かれる。
だが高慢ちきなイギリス人に馬鹿にされ、
大地のリズムのダンスを踊るシーンが必要になる。

うむ、このコメディパートはいいね。


出会いからここまでは、
いかようにもリライト可能な部分だと思う。

だが屋敷に忍び込む必要性があることから、
屋敷の中と外を結びつけるために、
イギリス美女に惚れるというあたりが、
ご都合主義ではあるもののインド映画のコメディらしいよね。

ここまではコメディパートにしておき、
屋敷の中で妹を発見、
必ず助けに来ると約束すれば、
メインプロットから外れていないものになる。

じゃああとは、
真ん中の戦いに向けて話をつくっていけばよい。

警官としての正体は隠そう。
それが対決の直前に明かされるのが良い。
となると、
屋敷に忍び込むときに、兄が弟を逮捕するのはどうだろう、
ということか。

これを逆算ポイントにして、
仲間を追っている、そもそもレジスタンスの動向を探っている、
それを捕まえられれば昇進、というラインを組む。

毒蛇のパートは流石にインド人でないと思いつかないだろうなあ。
一回ベッドを挟み、真実を言いやすいポイントを作ったのもうまいね。

そして、
噴水の前で火と水の対決に持ってくる構図が最高に熱い。


あとは、どうやって正体をばらし、
裏切るかだな。

昇進して武器を流し、
弟よ正体を隠しててすまなかった、共に戦おう、
妹を奪還するのだ、
となると、
逮捕しといて虫が良すぎる、というバランス感覚がある。

だから、弟の処刑を逃して、
兄が責をうける、という展開に捻ろうとするわけだ。

ここもアイデアの分水嶺。

なぜ弟の処刑を逃したか?
弟が公開拷問されるというシーンで、
決して屈しなかったからだ。
ついでに民衆が立ち上がり暴動を起こせば、
兄の悪役としての立場はいっそう際立つ。

このアイデアはとても秀逸で、
しかも歌で民衆を動かすのか、
というインド映画がミュージカルで本当に良かったと思える、
屈指の名シーンになったと思う。

あとはこれで弟が復活して、
兄を助けに行けば、
イギリス人と戦うクライマックスに持っていける。

武器を奪う話は一旦あきらめるが、
クライマックスの屋敷バトルで、
ラストに武器をたっぷりせしめて、
桃太郎のように村に帰還すればいいわけだね。

出口が決まったから、
あとは兄を助ける前に、
「そうだったのか…」と、
兄の正体がわかればよい。

そこで村からやってきた許嫁のシータと、
弟を出会わせる、
というアイデアにたどり着く。

あとは助けに行き、共闘するのみである。



これで概ね、重要なプロットポイントの骨格は出来上がった。

これからディテールに入れば良い。

ダンスのリズムが二人の合図になるとか、
神様の像から衣装と弓矢を借りるとか、
兄とシータが首飾りをしてて正体がわかるとか、
爆薬庫に火が入り屋敷が大爆発するとか、
ベッドで正体をばらすために蛇に噛まれるとか、
兄は馬、弟はバイクにするとか、
弟は屋敷近くのバイク屋でバイトして潜伏して、
屋敷潜入のチャンスを狙ってるとか、
そこでイギリス軍人に蹴られて嫌な目にあうとか、
兄は銃、弟は力持ちとか、
ロード、エイム、シュートの父親のエピソードとか。

あと、左手でカレー食って怒られる弟のエピソードとか、
肩車が伏線になってるとか。


骨組みを確定して、
ディテールに進めば、
この物語のシナリオは完成する。

だが途中でいくつものアイデアの分水嶺があった。
それをどっちに選択するかで、
全く異なった話になったと思う。

もちろん、毎回正しいほうを選択できずに、
アイデアの袋小路に迷い込み、
一旦戻ってこっちじゃないからこっちを考えよう、
もあったと思う。

毒蛇は無理矢理だし、
兄の育った村は忍びの里みたいな洗脳村だし、
ちょっとなにそれも含みつつ、
でも全体として面白ければ最高なわけだよ。

パーティーのシーンでお盆が転がり、
長いことグルグルと回っている間にイギリス人に馬鹿にされ、
しかしそれを兄が拾ってドラムにして、
インドの大地のリズムを奏でるシーンなんて、
もう最高すぎて爆笑と涙が同時に出たわ。

そんなものへと昇華する、
基本プロットが物凄く練られていたと思う。


屋敷に突入するのも正面突破かよ!なんて思いつつ、
トラックから虎や狼が出たのは最高だったなあ。
登場シーンの伏線を利用するんだなと。
虎と戦って強い男、ということを示していたが、
「実は猛獣を集めていたのだ」
という別の論理で伏線を解消する、
すばらしいトリックであった。
(どうやって食わしてたんだ?
飢えた獣だったんだろうか。
そもそも潜伏期間は数週間?
まあいいやインド映画だし!)


数奇な二人の男の物語は、
たぶんこれらのアイデアの分水嶺を超えてくると、
作れると思う。

いくつかのバージョンがあったかもしれない。
そして作者の頭の中には、
もっと色んなパターンが渦巻き、
いや、これが一番面白そう、
という選択肢を踏んできたに違いない。

その膨大な取捨選択が、
この傑作シナリオに結実したわけだ。



このようにして、
ガワを剥ぎ、
内臓を取り出し、
骨を見て、
どのようにすればこの骨がつくれて、
内臓をどのようにぶら下げて、
どのような皮と服をかぶせれば、
完璧な全体になるか?
を考えることは、
この作者のシミュレーションをすることだ。

名作を見たら必ずこれをすると、
あなたもどこかで真似できるかもしれない。
posted by おおおかとしひこ at 14:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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