カットバックをしないところ。
以下ネタバレで。
あるシーンを撮るとする。
Aというアングルを撮る。
Bに寄る。
そしたらAに戻ってこないんよ。
Bの寄りでおしまい。
あるいは、新しいCで終わる。
これは、
シングルキャメラによるカット割り技法で、
芝居の順撮りに適した方法論だ。
シーンが寄りで終わるなら、
その人の感情が大事。(感情の転換)
シーンが引きで終わるなら、
その時の状況が大事。(状況の転換)
これ、実は「行動」を撮るのに向いてないのね。
劇中、吉沢亮は、
「状況に流されていた」だけで、
実のところ自分で起こした行動はひとつもない。
神頼み(悪魔との取引)と、
プロポーズくらいじゃないかな。
神頼みは誰でもやるとして、
つまり自分で起こした行動で、
成功したものが一つもないのだ。
あ、中坊の頃の敵討ちもあるか。
これも失敗してる。
彼の人生はすべて、守られた人生だ。
渡辺謙に。
田中泯に。
女たちに。
なぜ彼に女形の才能があったかは劇中で描かれていない。
たまたまでしかない。
なぜ、どういう才能があって、
それがどう磨かれ、どう腐り、
どう昇華したかは、
我々にはよくわからない。
結果としての舞台芸として示されていて、
プロセスが示されていない。
あしたのジョーですら、
ジャブの練習から入る。
なのに、試合でたまたま勝った負けたを繰り返してるだけに見える。
それはつまり、
偶然に流されているようにしか見えないのだ。
唯一あるのが曾根崎心中の、
「死ぬる覚悟」のエピソード。
「お前は誰となら死ねるか」と問われて、
横浜流星の存在に気づく、
という話でもなかった。
たまたまその女の気持ちがわかった、
に過ぎない。
なんでかはしらん。
だから、
ずっと吉沢亮が、流されているだけに見える。
大河ドラマというか、
人生というのは大きな荒波に流されて、
ついにどこかにたどり着くことだ、
みたいなこととしては良いかもしれないが、
何もせずに小舟が舞い踊っているようにしか見えない。
これが、
シングルキャメラのカット割りと相性がいい。
寄りで終われば運命を受け入れる表情、
引きで終われば事態が変わり、次の運命に移行、
となるからだ。
その運命に抵抗して、
何かを変えようという行動を描くのに、
向いてないカット割りなのよ。
カットバック、つまりその状況に置かれた2人を、
交互に写す方法論は、対立を示す。
対立という圧があるからこそ、
それを跳ね除ける行動を描くことができる。
それを選択しなかったのは、
物語自体が、「流されている」からであった。
こうなると、
セリフが極端に少なくなる。
東北の人のように。
過酷な自然環境に黙って耐えて、
春を待つ人のようになる。
長崎出身とはいえ、
吉沢亮は関西人として育ったはず。
じゃあ軽口としての冗談以外に、
なぜべらべらしゃべらない?
渡辺謙もまじめすぎる。
あんな関西人おらんやろ。
オール巨人くらいや。
みんな言葉の回転数が少なすぎる。
いや、東北の話、関東の話ならば、
それもわかる。
静かに状況を待ち、寡黙で、無言で実行の美学がある、
東の話ならばそれもわかる。
西の話でも、寡黙なやつが1人いて、
周りは全部べらべら喋る野郎ばかり、
というのはある。
だけど全員寡黙ってどういうこと。
省略がとても多い。
セリフは多くを語らず最小限のみで、
あとは察してくれ、という形式であった。
これが高倉健とか東北の話ならわかるけど、
ことは関西の話や。
京都の嫌味もなければ、大阪の対京都へのなんか嫌がる感じもない。
ネイティブが描いてないからしょうがないけれど、
「状況に流されて無言を貫き、
春を待つ人々」
にしか見えなかったのね。
それは人生かもしれないが、
映画かな?
50年を描くから、
各時代のオイシイエピソードをつまむしかない。
だけどその一気通貫してるものはなに?
何かを変えてやろうという信念ではなく、
籠の中の鳥が、
綺麗な景色を探してるだけだったのでは?
各エピソードの連関性が薄い。
はじめて渡辺謙につけられた肩甲骨に筆で書かれたやつ、
あとのどこにも出てこない。
親の仇のヤクザは二度と出てこない。
「芸で敵をとれ、約束やで」と言われたことは、
結実したのかなんともいえない。
嶋田久作の部下のやつとの関係性も、
はじめは突っかかってたのにあとは良好な関係になっただけ。
田中泯に言われた、
「顔が良すぎるからそこに溺れる」も、
何に関係してるのかわからない。
全体にうっすら関係してるような雰囲気を、
省略技法でごまかしてる感覚すらする。
ホモセクシャリティ、ないしBLの関係性かな?
中学時代に桜並木を二人乗りするのが、
どうにも気持ち悪い。
そこに至るまでのわだかまりがあるやろ普通。
なんであんなヤクザの子ウチに入れたんやと、
ボンボンなら反発していじめるやろ。
縄張りに入ってきた余所者をなぜ排除せずに、
二人乗りするのか、
全然わからない。
それを「友情」といえるのだろうか?
男同士なら、それが子供でも、
まず威嚇して、認め会える資格があるかどうか試すはずで、
そこが2人のファーストエピソードになるべき。
それがあまりにも何もないので、
ただの夢想にしか見えない。
女形に勃起するとかないのかな?
中学生やぞ?毎日勃起してしょうがない時期やぞ?
「芸に取り憑かれる」なんてよくいう。
その芸とは何かが、まったく描かれていないので、
ようわからんままや。
結果としての舞台は描かれるだけで。
かつて「フラガール」では、
フラダンスは手話なんだ、と解説があった。
だからラストの手に意味があった。
二人道成寺でも鷺娘でも、
とくに意味がないのが、
「何を見ていいのかわからない」んよね。
曾根崎心中の足の壊疽はうまいと思ったけど、
「死ぬる覚悟」は、
一体誰と死ぬる覚悟だったのか、
重ね合わせようがない。
これを見ると、
いかに「ガラスの仮面」が、
よく出来ているかわかる。
劇中劇をきちんとつくりあげて、
今役者が何を考えてこの役を演じているのか、
誰にもわかりやすくしようとしている。
それが皆が知ってる前提になると知識の差が出るから、
初出のオリジナル演劇でやる、
という構成がおそろしいくらいだ。
本編、劇中劇、そのシンクロと、
3倍の労力がかかるからね。
なぜマヤが恐ろしい子なのか、
演じることの凄味や恐ろしさを、
ガラスの仮面のほうが伝わってくる時点で、
この映画の「芸への思い」が、
まるでわからんのよ。
曾根崎心中をやろうとした、横浜流星の気持ちはわかる。
それに答えようと相手役を買って出た気持ちもわかる。
だけど吉沢亮は、状況に反応していただけ。
何か自分から仕掛けたわけではない。
状況に流される、
という物語作法は、
日本の物語の基本になってる部分がある。
それを「侍タイムトリッパー」でも議論した。
自然環境ならわかる。
でもそれが、梨園という「人間関係」なんだから、
それは崩せるやろと思ってしまうんよね。
そしたら、結局渡辺謙と田中泯に庇護されていただけという。
そうだな、
父殺しがなかったな。
だからずっと変だったのかもしれない。
義母である寺島しのぶから拒否されて、
おんな性を森七菜に求めた?のはわからいではないが、
吉沢亮は、父殺しをしてないんだよな。
渡辺謙も、永瀬正敏も、田中泯も、
そして横浜流星も、殺してない。
悪魔に魂を売った割に、
屋上でウイスキーのんで踊ってただけ。
ただ残されただけ。
残された籠の中の鳥が、
最後にきれいやなあと言っただけ。
状況に反応しかしてない、
流されている者の、
対立がないシングルキャメラ。
なんか日本映画のダメなところを煮詰めただけに見える。
これらの技法は、使いどころを間違えなければ、
とても良い効果をもたらす、
日本人の発明だと思う。
だけど李相日は、
これらの真髄を理解せず、
話を誤魔化して盛るためだけに使っているように見えた。
フラガールのラストは、
蒼井優がただ踊ってるだけでかわいかったので許す。
汗まみれの蒼井優を抱きしめてベッドに押し倒したくなった。
でも僕はホモではないので、
吉沢亮が踊ってるだけではときめかない。
たとえば「女形は誰かを好きになったら女になれる」
と前ふればいいだけだと思う。
「男やけどその時だけは女やねん。変やろ」でいいと思う。
で、誰を思ってその芝居をしてんの?
と聞かれて、
答えを省略するだけでいいはず。
原作は読んでないので、
映画だけの感想だ。
もし原作の方がよいのなら、
映画の出来は悪いということになるね。
久しぶりに「本気で作った」日本映画を見て、
目と耳は満足した。
連日満席、リピーターがいるのもよくわかる。
眼福を皆見に来るのだろう。
だけど心は一向に満足しない。
きれいなやあ、でごまかすなや。
で?ってずっと思っている。
(追記)
屋上で狂ったように踊るシーンの、
「どこみてんの?」「どこやろなあ」は、
アドリブなんですって。
おそらくこの映画を見た人は、
みんなあのシーンが美しいと思うと思うんだけど、
アドリブなんかい。
それを作れない、脚本と演出の力の弱さよ。
たとえば「ブレードランナー」の、
ルトガーハウアーのラストのアドリブで、
完全にハリソンフォードは食われた。
映画の質が変わってしまったのだ。
だがそもそもの脚本計画が陳腐だったものが、
そのアドリブで一流の仲間入りをしたわけ。
この「どこやろなあ」のアドリブは、
風穴はあけたものの、
結論に至ってないアドリブだ。
だからアドリブするだけ無駄だったんだよね。
(吉沢亮イイ、には寄与しているが、
それがあってからの「きれいやなあ」には、
結実していない)
2025年08月12日
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