2026年01月28日

静かすぎる田舎(「ウインドリバー」評)

かなりの良作。相当つくりとしてしっかりしている。
脚本技術的に勉強になるので見たほうがいい。

ただしタイトルが悪い。
知らなかったら絶対見ない。
「オッ、『ウインドリバー』ってかっこいいな、
内容はしらんけどおもしろそう、見たろ!」
っていう人は、日本に一人もいないと思う。

せめて「ウインドリバー地区」「ウインドリバー居住区」「ウインドリバー村」
と、ネイティブアメリカン居住地区の話であることを明示するべき。
しばらくネタバレなしで続けます。


風の川というのはネイティブアメリカンの名付けた村の名前だ。
風も川も、この映画にはまるで関係ない。

(ほんとうは風の川のような素敵な土地から、
無理やり移住させられたのだろうか?
繰り返し語られる詩や、追い詰められたネイティブたちの表情から、
隔離地区に追いやられているような気がしたが、
これも本編にはあまり関係ない)

日本に置き換えれば、
北海道の北の方、網走とか、
東北のうら寂しいところがイメージだね。

それとウインドリバーが逆の意味で皮肉である、
というほどでは本編内ではなかったので、
このタイトルは不適切だ。
(アメリカの文脈では理解できても、
世界での文脈では不適切なタイトルであろう)

「ウインドリバーの悲劇」とか、
「氷の村」「白い村」
「沈黙の村」とか、
「白き狙撃者」とか、
「足跡が消える前に」とか、
本編に即したタイトルにしないのはなぜだろう?

僕は、配給側が無能だからだと考えている。

こんな良作を、
タイトルで惹かれないという理由だけで見られないのは、
ほんとうにもったいない。

「雪の中のネイティブアメリカンの村の殺人事件が胸糞だった件」
でもいいくらいだ。


とくに主役のジェレミー・レナ―のハンターぶり、
スナイパーぶりがすごい。
静かな役なのがとてもよくて、
のちのマーベルでホークアイに抜擢された理由は良く分らないんだけど、
この映画をみれば、その抜擢理由は分る。
スナイパー役がとてもいいからだ。


雪国を舞台にした犯罪劇といえば、
「ファーゴ」だけど、
たいてい「人には隠している裏側がある」
をモチーフとしている。

雪は静かに降り、
人々は家にこもるしかなくなる。
そこで秘密が生まれる仕組みだ。
それを殺人事件と謎解きだけに集中した、
ちょうどいい塩梅のチューニングだった。

落ちを見る限り、
これは法と正義に関する映画だともいえる。

以下ネタバレ。





過酷な自然がつねに逆境になるようにしてある。
雪国の人たちは寡黙だ。
口を開き、大げさにしゃべると、肺が凍るからだ。
(これはのちに使われる伏線になる)

だから何を考えているか分らないのか。
それとも、ただ黙して生きてるだけなのか。
それが分らないのが、この映画の魅力になっている。

主人公サイドにもつらい過去を設定して、
それを利用するのはこうした映画ではよくあるとだが、
ネイティブアメリカンの父とのラストシーンの静かな「友情」は、
とても良かった。

静かだろうが、激しかろうが、
それは人間なのだ、
というラストが胸を打つ。


とくに犯人を追い詰めたときに、
犠牲者と同じ処刑をしたのが印象的だったね。
目には目を、歯には歯を、という西部劇のような処刑だったのが、
とても良かった。
法では制御できないへき地の、
まだ人間が法を持つ前の法が良かった。
そういう意味ではダーティーハリーだよなー。
ネットが全地球を結んでしまってから、
こういう「正義」は通用しなくなっているからねえ。


脚本的には、
犯人の居住地に踏み込んでいくとき、
ノックしてから撃たれるまで、
「実は何が起こっていたか」
の回想インサートを延々やるのが新しかったね。
脚本上でこういう構成だったのか、
それとも編集でこうしたのかは不明だが、
秀逸な構成だったと思う。

そういえば主人公の妻の話、
どうなったんや。使っていない伏線だな。
あったけどカットしたんだろうな。
ネイティブアメリカンの区別がつかなくてさ、
殺された彼女と妻が一瞬区別つかなくてねえ。
まあ、回想シーンがわかればそれでいい、
という構成だったから助かったけどね。


そのあとの銃撃戦、遠距離からのスナイプが、
この映画の白眉であろう。
姿なき狙撃者の恐ろしいこと。
そしてそれがヒーローであるという瞬間は新しかった。
ホークアイに抜擢されるわけだよな。



脚本的な技術のもうひとつは、
コントラストだ。

セックス、どこに住む?真夏のクリスマスの話、そこに住みたい、
という最高の瞬間からの、
男たちが帰ってきてからの惨劇。
銃を構えあう緊張感から、
一回リセットしてからの、
最悪の銃撃戦。
このへんが抜群に上手くて、
こっちの感情が揺さぶられているのがすごい。

それもこれも、
静かな雪の場所、
というのがスパイスとして効いているわけだ。
静かから一転轟音になるのをうまく効かせている。


実話をもとにした話とはいうものの、
ネイティブアメリカン居住区と、
レイプのデータだけが事実で、
あとは創作であろう。
いくつかのレイプ事件を合成していたり、
居住区の様子は取材しているかもしれない。

広大な土地に警官6人ってやべえよな。
救急車が1時間かかる、
というのもリアルに怖かった。
撃たれたヒロインの、死の覚悟が胸に迫ったなあ。
(あそこがボトムポイントです)

生きててよかったけどさ。
その冗談もうまいよね。緊張と緩和が、
うまく描かれていたと思う。



こうした技術の吸収に、
とても良い映画です。
ファーゴより全然いいでしょ。
posted by おおおかとしひこ at 09:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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