冥王星探査衛星ニューホライズンズの事故とそれでもリカバリーした話。
https://x.com/usephys/status/2037273387362378160?s=20
この話は一般用に書いたか、
それともこの人がエンジニアじゃないか、
どちらかだ。
熱いとか、大変とか、徹夜とか、
気持ちの話をしてるからね。
ほんとうに熱いのはここじゃない。
まず議論の前提。
冥王星まで9年かかること。
電波が4時間半かかり、往復9時間かかること。
つまり9時間おきにしか、状況把握→指示ができないこと。
ここまでは書かれているが、
もっと大変な事が書かれていない。
地球-冥王星は、いつ打ち上げてもいいわけではないこと。
途中の木星や土星の重力を使って加速するスイングバイをしないと、
9年どころか30年とかかかるので、
その途中の軌道が一番いい配置になるタイミングで発射するので、
それが何十年に1回しかないこと。
つまり、これを逃したら自分の冥王星研究生活は終わること。
望遠鏡で冥王星を覗くことしかできなくて一生を終わるので、
冥王星に近づくチャンスは、この一生に1回しかないこと。
このチャンスはニュートン力学によって、
何十年も前から来る事がわかっていた。
そうやってボイジャーは打ち上げられ、
惑星探査機は各チャンスに応じて沢山打ち上げられた。
たとえばロケットって、地球の自転の速度を使う。
東から西に回ってるので、順向きで打ち上げなければいけない。
飛行機ですら太平洋横断の東西が逆になると2時間くらい影響がある。
これは燃料などすべてに関わってくる。
そして惑星の位置は常に変わっているので、
同じ宇宙の方向に打ち出せるのは、年に1回しかない。
そして来年同じ位置に来ても、
惑星たちの位置は同じではない。
完全に一周するのって、たしか300年くらいかかるんだっけ。
科学者を志した時、
冥王星のチャンスが○年後にあることはわかっていた。
一生に1回しかないこともわかっていた。
だから、ニューホライズンズでの探査計画は、
一生に1回の、何十人何百人の希望が殺到したはずだ。
なんとか分析をやりたい、なんとか観測をやりたいと、
それらの計画書をつくるだけで、
オリンピックの開会式の整理みたいになってたはずだ。
当然予算もある。
予算配分をする人も心を痛めながら予算カットをしていっただろう。
エンジニアはバカではない。
機械が故障しないと思ってるエンジニアはいない。
必ず故障する、バグが出ると思っている。
だからものをつくるときは、
何重にも故障対策をする。
故障しないための対策もあれば、
故障したときの対策もある。
この場合は、熱暴走用のプログラムを仕込んでおいたことだ。
4時間半も熱暴走されて、
そこからようやく通知が来て電源を切って、
それが4時間半後届いても、
回路は熱で切れまくって復帰しない。
だから、「前もって熱暴走の際のシャットダウンと、
復帰のためのプログラム」を仕込んでおいたのだ。
この、あらゆる事態を想定するための想像力こそが、
エンジニアのロマンだ。
宇宙に行ったことのあるエンジニアはいない。
そこで何が起こりえるか、
科学を用いてフルに想像しなければならない。
そして、1万の想像と対策をするだろう。
一生に1回しかないチャンスなのだ。
一つも当たらなくてもかまわない。
それが順調に進むということだからだ。
エンジニアは老婆心が多すぎると言われて、
バカにされるのがちょうどいいくらいだ。
だがその一つが起こったのだ。
順調にシャットダウンが進み、
わずかな電波で報告するプログラムが起動した。
ここまでは計画通りで、
驚くべきことではない。
あとは対策するだけだ。
作った者たちは改造できる。
だが時間がないことだけが問題だ。
3日の徹夜くらいなんだよ。一生に1回だぞ。
もうひとつ大事な前提がある。
冥王星の近傍を通過する時間だ。
たぶん1分ない。
猛烈なスピードで進んでいるからだ。
そのためのフライバイプログラムを組み直す軌道計算をしたのだろう。
シャッターは自動で押される。
4時間半前にシャッターを押して、
たぶん1分くらいしかないときにシャッターが開かなければならない。
観測計画のトリアージが進んだだろう。
なんとか分析やなんとか観測は、
後回しにするしかない。
3日しかないから、
あれこれを議論してる暇がない。
議論とはみんな知ってる通り、
会社の会議室と、裏でネゴし続けることだ。
膨大な計画のそれぞれをやってる暇はない。
たったひとつ残すとしたら何か。
そこから議論したと思う。
それが、一生に1回しかない、
「冥王星の写真を撮ること」に、
たぶん全員合意したと思う。
僕らは勝手な人間たちだ。
自分の都合ばかり優先させて、
他人を邪険にするいきものである。
だけど、
一つの目的に団結できるいきものでもある。
一生に1回しかないワンチャンのために、
すべてを仕込み、想像して、計画して、
事故が起こったとしても、
たった1枚の写真を撮ることに団結できる、
すばらしいいきものだ。
理系のロマンは、
ここにつきる。
想像と計画。
9時間先のシャッターボタンは誰も押せない。
だけど、
科学で計算すればできる。
9年前に計画したことを、間違いなくやれることだ。
そこに一番熱さがある。
2026年03月27日
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