2026年06月01日

存在が揺るがないと面白くない

楽勝のものは困難がない。
そして、ただ物理的に困難なものは頑張ればいい。
それだけだと「大変だなー」で終わってしまう。

物語になるのは、
その主人公の存在が揺らぐような、
精神の平衡が崩れるものだ。


分りやすいのは弱点の存在だ。
単純にピーマンが食べれないとか、
そういうものではない。
人にやさしくできないとか、
女と話せないとか、そういう人間的なやつだ。

でも実はそこにはもっと根深い問題があって、
人に優しくできないやつは、
他人から優しくされたことがなかったことが原因であるとか、
女と話せないのは、母親との関係に問題があったり、
ひどい女と付き合って不信になっているとかだ。

そしてそれを克服しなければ、
問題が解決しないように仕込むのが、
ドラマというものである。
人間的な弱点を克服するドラマをつくればいいのだ。

ひどい環境で育って、他人から優しくされて、
なんでそんなに人間を信じられるのかを知り、
相手を信頼したときに、
初めて他人に優しくできるようになった、
という話をつくると、
それがオリジナリティがあれば感動的だ。

他人を殺すしかない怪物が、
そうやって人の心を得る話は、
古今東西たくさんあるだろう。

そしてそれが化け物の話なのではなく、
実は人間の話なのだ、
となるのが物語である。
(人間は誰しもそういうところがある。だから感情移入できるのだ。
物語とは、その部分を、
突出して異常に描くことで、
今回はその部分を中心に描きますよ、
ということなのである)

母親との関係が最悪で、
女と話せない男がいたら、
母親との和解、下手したら殺す話をつくればいい。
最初は殺そうということになるのだが、
殺してしまったら、二度と和解できなくなる、
みたいに逆転するようにつくってもよい。


弱点を克服しなければ、
Aストーリーが前に進めないようにつくるのが、
上手なAストーリーと個人的なBストーリーの絡め方だ。

たとえば、
閉じ込められてしまい、
協力しないと出れない、みたいな状況をつくり、
最初は一人でなんとかしようとし、
相手を信用できないからということで喧嘩しあって、
そのうち信用するしかない、みたいな話をつくればよい。

一回裏切ろうとするが、
実は信用していたのだ、みたいなひっかけをつくっても良いだろう。

その協力のしあいが、
Aストーリーの進展、たとえば脱出して局面を打開する、
みたいになると、
AとBが絡むことになるわけだ。
こうやって、弱点をさらし、
次に進むために必要であるように組むとよい。

もっと存在を揺らがせてもよい。
弱点ゆえに、
精神的に死にそうになり、
もうこのままでは人生立ち行かないまで、
底に沈めてもよい。

大逆転するには、
そのことに向き合うしかない、
という状況に自然に追い込むことで、
一番触れたくないトラウマに触れることになるだろう。



弱点を見せる人に、
人は感情移入する。

最強で完璧な超人は、
一般的には尊敬の的になるが、
感情移入して、あいつは俺だと思うことは少ない。
(だって多くの人は最強でも完璧でも超人でもないからで、
そういう人が映画を見るからだ)

普段は普通なりすごいなりなのだが、
今回起こったこの件に関してだけは、
存在がゆらぎ、
最悪の触れたくないところに触れないと、
話が進まないようにすると、
その物語はその人にとって特別なケースになり、
我々にとっては、
人間が弱点を克服する、
感情移入に値するものになるであろう。

たとえば、
「ルパン三世カリオストロの城」は、
単なる偽札事件ではなくて、
「昔一人でやってたころ、到達できなかったもの」
であることがわかる。
ルパンにとって過去のトラウマに触れることになるわけだ。
そのときに助けてくれた人クラリスと、
今回は淡い恋仲になり、
個人的な弱点をさらすことになるわけだ。
だから、
弱点の克服のない、
普段のレギュラー話とは一線を画す、
「映画的物語」として価値があるわけ。



あなたのストーリーに、
「映画的ななにかが足りない」と思うならば、
この要素がうまく機能していない可能性が高い。

どん底まで叩き込まれろ。
そして一番自分の触れたくない部分に触れろ。
それを、
正面から見据えて、
克服するのだ。

そういうことが、
ストーリーの必然性として出てくるようにつくると、
無理もご都合もなくなるだろう。
むしろ、そのうまさが名作の条件まであるのではないだろうか。


怖い。震える。膝ががくがくする。
逃げ出したい。家に帰りたい。
その恐怖を克服する勇気に、
人は魅入られるのだと思う。
posted by おおおかとしひこ at 10:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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