2026年05月12日

【薙刀式】新配列をめぐる基礎知識

新配列を議論することとは、
あの字があっちにあるべきとか、
これが楽だとかだ。

でもここに至るまでに、
基礎になる周辺知識を身につけておかないと、
この議論の入口にすら入れない。

どうやって実装するの? OSは?
どんなタイプがあるの?
身につけるには?
qwertyと両立/切り替えはできるの?
今後なくなったらどうしたらいい?
ゴールは?

などを知っておこう。


1. どうやって実装するの? OSは?

分かりやすいのは、エミュレーターと呼ばれるプログラムを走らせることだ。
Qの位置のキーを押したら、
Qという文字を出力するのではなく、
Aという文字を出力せよ、
などのように、全キーを書き換えたプログラムを走らせるとよい。

各OSで標準的に提供されているものは、
Windows: Power Toys
しかない。
これはキーのスワップ(交換)しかできないので、
カナ配列や同時打鍵判定やレイヤー化はできない。

なのでWindowsでは、キーフックができるソフト、
AutoHotKey言語を用いたプログラムが一般的だ。

新配列エミュレータの現在の代表は、
ストアアプリにもある紅皿だ。

他に個人開発で、
桔梗、Keymapper、Kanataあたりが新しい。

伝統的には、
DvorakJ、やまぶきR、のどか、窓使いの憂鬱、
などが使われてきたが、
開発停止しているため、
今後のOSの仕様変更に耐えられない可能性はある。


Macにおいては、
伝統的に、Karabinar-Elementsが使われてきた。
個人開発(現在はチームのはず)で、
アプデにも対応し続けてくれてる神ソフト。
親指シフト専用ソフトにはLacallieがある。

また、薙刀式だけに限れば、
専用ソフト、Benkei(Mac)、Benkei for winがある。

Linuxに関しては知らないので調べられたい。
KeymapperはOSフリーのはず。


IMEのローマ字テーブルをいじる手もある。
一部の配列はこれで実装できる。
とくにGoogle日本語入力はローマ字テーブルの自由度が高く、
これを標準実装としている配列もある。

Mozcには同時打鍵版が個人によって開発され、
これで新下駄配列が実装された例もある。


また、キーボードから来た信号をUSBケーブルから読み取り、
プログラムで変更して、USB信号で返す、
キーボードとPCの間にかませるアダプタも存在する。
かえうち2が有名。親指シフト専用機はOYA Conv。


キーボード内で配置を変えられるキーボードも増えてきた。
配列がキーボード内にあるので、
それをPCにつなげばどこでもその配列が使えるのがいい。
HHKBやファームウェア(キーボード内プログラム)対応の、
キーボードを探されたい。
ただ、レイヤーや同時打鍵判定まで可能なものはほぼない。

自作キーボードならば、
内部のファームウェアをcで書けるので、
そこに配列やレイヤーや同時打鍵判定も仕込めるので、
あらゆる新配列を入れる事が可能だ。

薙刀式に関しては、qmk薙刀式、zmk薙刀式がある。

このqmkをアダプタ化している自作ハードウェアもある。
qmk quantizerだ。
USB2BTはUSBをBT化するハードだが、
この中に親指シフトが入ってるので有名だ。


PC、IME、キーボードの間の、およそ考えうる、
あらゆるところに新配列実装方式が存在する。
それぞれの事情により使い分けられたい。
○○配列を使いたい!ってなったら、
その配列名 エミュレータでググれば出てくると思う。



2. どんなタイプがあるの?

大きくわけると新配列には3種類ある:
ローマ字、カナ、漢直(漢字直接入力)だ。

文字種が少ないと覚えやすいが打鍵数が多くなり、
文字種が増えると覚えるのが大変だが打鍵数が減る、
という大きくはトレードオフの関係にある。
(カナはローマ字の2打を1打で打てるから速いが、
打鍵範囲が広くて大変というのもこの一種)


ローマ字には、
日本語専用ローマ字配列(英語は別の配列、たとえばqwertyで打つ)、
日英共用配列の、
2カテゴリがある。

日本語と英語は音韻構造が全く異なるので、
それ専用の配列としたほうがいいか、
ニコイチで楽するかの戦略の差だ。

ローマ字の基本戦略は、
子音と母音を左右に分離して整理し直すことだ。
左右、左右……と打っていけると楽だよね、
という考え方だ。
(近年、片手連続の連接を活かす考え方も出てきている)

また、
「強い指、打ちやすいところにメジャー文字を置き、
弱い指、打ちにくいところにマイナー文字を置く」
というのは全ての新配列の基礎の設計法だ。

このため、「標準運指を前提とする」が、
実は新配列のすべての隠れた前提だね。

qwertyローマ字には指の貸し借りをする最適化運指法があるが、
そんなややこしいことをせずに、
文字側を標準運指にあわせてきれいに並び替えよう、
というのが新配列の基本的な考え方。

したがって、
よく練られた新配列ほど、
文字の出現率統計を参考にしている。

文字の出現率には、
ひとつの文字が何%出るかという1gram統計から、
2つの連続する文字に関する2gram、
n個の連続する文字に関するngram統計がある。

容易に想像できるように、
ローマ字のngramと英語のngramは全然違うので、
別個に設計するべき(専用派)という意見と、
間をうまく取ろう(共用派)の意見がある。

大西配列が共用派の代表。
SKY配列、M式、けいならべ、カタナ式、せおと配列は、
専用派。

もし英語専用配列を探しているなら、
たくさんの英語圏での研究がある。
Dvorak、Colemakといったメジャーどころから、
Arensito、MTGAPなどの新鋭?まで何百とあるので、
各自調べられたい。(僕は詳しくない)


カナ配列は、
50音ある、アルファベットより多いカナをどう並べるかについて、
大きく2つある。

一つは46キーあるJISキーボードにくまなく並べる派、
もう一つはブラインドタッチ可能な30キーの範囲内に、
レイヤー化して畳み込む派だ。

前者の代表であるJISカナは、
ブラインドタッチを考えて設計されたものではない。
だからブラインドタッチ専用に作り直そうということだ。
だがそんな指の能力のある人は少ないので、
いろは坂配列、龍配列など作例は限られる。

カナ系新配列といえば、
レイヤードされた30キー範囲の、
手の届く範囲の配列の事をさすことがほとんどだ。
薙刀式もここに属する。

あとはレイヤーキーをどこに置くか、いくつ置くか、
同時打鍵にするか、シフトみたいに押しっぱなしにするか、
ワンショット方式(1回押すと、次に押す1キーだけレイヤーのものになる)か、
などで枝分かれする。

詳しく書かないが、
親指シフト、飛鳥配列、シン蜂蜜小梅、
下駄配列、新下駄配列、
月配列、
新JIS配列、薙刀式、
などのようにカテゴリわけされる。


漢直配列については、
カナ漢字変換せずに、日本語の全ての文字を直接だそう、
という考え方だ。
(極論すればUnicodeを入力すればよいが、
それは実用的ではないだろう)

常用漢字が2100、ひらがなが50、カタカナが50なので、
2200文字を直接出す事が基本目標だね。

たとえばT-codeは、40キー×40キーの、1600の組み合わせの中に、
ひらがな、カタカナ、常用漢字の全部ではないもの、
を収録して、「すべての文字を2打化する」
を実現している。

ほんとにそんなので日本語をスラスラ書けんの?
と長年疑問だったが、岡俊行さんや前田薫さんが、
T-codeの打鍵動画を上げてくださっている(ATCなどでも)ので、
実用に足ることが証明された。

ほかにも、3打まで許容して収録文字を増やすTUT-codeなど、
いくつかの亜種があるが、
ここも僕は詳しくないので調べられたい。


近年では、僕が薙刀式の運指を使ったまま漢直化する、
100字だけの漢直、百式漢直をつくった。
これの改良版で、1打だけで漢字を出せるような、
ワンショット漢直を作っている途中だね。

漢直は、漢字変換を不要とする。
直接漢字がバラバラと入っていくさまは、
カナ漢字変換を見慣れた人からすると衝撃の光景。
当然入力者の意識は変容する。
より文や思考に近くなる。



3. 身につけるには?

新配列はブラインドタッチ前提だ。
だから「指の感覚」として言葉を身につけていく。

配列図やキーボードを見ずに、
指の感覚だけで、画面を注視しながら、
ホームポジションにどんな文字があるのかを、
一つずつ手の中に叩き込み、
それで言葉を作ってホームポジションをクリアする。
(新配列は、ホームポジションを一番使うように設計されている)

あとはそれを幹として、枝葉を周囲に伸ばすように、
上段下段をマスターしていくと良い。

配列の難易度にもよるが、
まず指が動くなるまで1〜2週間かかり、
実戦に出られるまで1〜2ヶ月は見たほうが良い。

簡単な配列なら2〜4週間、
難易度の高い配列は2〜6ヶ月見ておこう。

漢直は例外的に難しく、1年は覚悟かな。
(ベテランは10年以上の修行だね)


その間、雑音を入れないために、qwertyなど前の配列は封印すること。

なお、物理キーボードを変えると、
手触りや感覚が変わるので、
新配列とqwertyの使い分けに寄与すると、
経験的にわかっている。


よくある間違い:

×あいうえお順→よくつかう文字からやろう。中段に集まってるぞ

×いきなり自分の言葉を書く→よく使う文字で文章を作らないので、
 その配列の形を覚えられない。まずその配列の特性から覚えよう。

×いきなりタイピングゲームをやる→自殺行為。死ぬからやめよう。

×キーを見る→禁止。ブラインドタッチ用配列への愚弄。
 無刻印を使う、タオルを手に被せる、真っ暗な部屋で練習などがよい。

×キーキャップを入れ替えてその配列にする→同上。
 ただし映えたり他の人にアピールするためにはよい。



4. qwertyと両立/切り替えはできるの?

はい。余裕。ていうか、なんでできないと思った?

僕は昔いろいろ研究してた時、7つの配列を打てたよ?
もう打ってないので今はできない。
今打てるのは、薙刀式とqwertyのみ。カタナ式も思い出せば行ける。

色々な人の経験談から、
qwertyと新配列の2つは、余裕で行ける事がわかっている。

ただ、時間はかかる。
新配列のマスターに1か月かかるとして、
その間はqwertyはガタ落ちする。
しかし使い続けると、2ヶ月程度かけて、
ゆっくり回復する事がわかっている。

身体が、
新配列へ移行する→2つの配列の併用に慣れる
→qwertyが元の感覚まで回復する
という状態を経る事がわかっている。


「qwertyが打てなくなった!」とよく騒ぐ人がいるが、
これは変容途中で焦っているだけに過ぎない。
赤ちゃんはこの世界に適応できなくて、よく泣くものだ。
泣き終えて、成長したら泣かなくなることを、
我々助産婦は知ってるのであんまり動揺しない。
でもまだ生まれたての赤ちゃんは、
隣の赤ちゃんが泣いたら不安で泣いちゃうよね。よしよし。



5. 今後なくなったらどうしたらいい?

エミュレータは個人開発のものである。
オフィシャルなものではない。
(唯一ストアアプリは紅皿のみ)
でもキーボードなんて5年も持たないだろ。
次のときに考えようぜ。

Win11がWin12になった時に考えよう。
それまで得をする戦略だっていいじゃん。

ただ、後方互換性があるなら、
なんとなく使えるだろうと思っているね。
DvorakJなんて15年は前のものだけど、
全然現役で使えてるし。
仕組みが簡単なものはなかなか壊れないよ。

また、それが便利ならば、
必ず有志はいると僕は信じている。
それがオープンソース文化だと思う。

その代わり、それぞれがオープンソースを支えられるように、
努力するべきじゃない?
オープンソースは無料だけど、
みんなが酒とツマミを持ちよる飲み会みたいなもんさ。
場所を提供したり、車を出したり、片付けや洗い物をしたり、
それぞれが提供できるもので、
場を維持できればいいと思うんだよね。

ある種の原始共産制で、自治の村みたいなものよ。

僕はこの文章で貢献した。
協力できる時でいいから、みんなもなんかしてくれ。
この記事を拡散するのだって、貢献の一つだよね。



6. ゴールは?

個人のゴールと、社会のゴールがあると思う。

個人のゴールは、
「道具が消えること」。
まるでキーボードなどないように、
思えば文になることだ。

思考入力ができるまでは、
人間の最も器用な部位は手なので、
手で文を書くこと自体は残ると思う。

刀を練れば、たぶん思えば人がまっぷたつになるんだろう。
そんな風になるのが理想じゃないかしら。
そんな道具に出会いたいよね。

何がいいかは人によって違うから、
いくつかを触って比べるしか、
今のところは見つける方法はない。
(僕は配列カフェみたいなのをつくって、
そこで試し打ちできる場所があるといいと、
ずっと妄想している)

その配列で書かれた文章を読むのも参考になる。
なんとなく相性が合うなら、
その配列は自分に合う可能性が高い。


社会的なゴールは、配列の自由化だ。

標準配列が画一的なお仕着せだと皆が認知して、
OSレベルで色々な配列を自由に選択できたり、
自分のカスタムを持ち歩けるようになること。

効率が良くても悪くてもどちらでもよい。
大人には愚行権がある。
各自が文房具や絵筆や車を自由に選べるように、
配列が自由に選べることだ。

なにか一つしか選択肢がないのは変だ。
ことばは全ての多様な人にひらかれるべきで、
たった一つのやり方しかないのは不自由の強制である。


OSレベルでできないと、
OS側の勝手な仕様変更でついえるので、
ずっとできるようになるのが理想だと思う。

僕はプログラマではないので、
どうやって実現していいかわからないが、
azooKeyのようなIPA未踏IT事業みたいに、
何かできる人はやってみてください。

新配列の収集や原理の分類や整理の協力は、
僕はできると思います。


qwertyローマ字やJISカナの出来の悪さに怒っている人、
それが日本人のデジタルの生産性の悪さを引き起こしてる原因では、
と思ってる人は、結構いると思う。
僕はそれを廃止して、新しい王を立てたいのではない。
みんな違ってみんないい世界を、
つくるべきだと思っている。
posted by おおおかとしひこ at 14:48| Comment(0) | TrackBack(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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